若い内に資産形成を進め、早期に仕事の第一線から退いて自由な生き方を楽しむ。多様なワークスタイルが認められるようになった今、そんなセミリタイアを志すビジネスパーソンが増えています。
一方で、一般的な退職時期を待たずに早期リタイアするのですから、それまでにまとまった資産を準備できるかがセミリタイア成功のカギを握ります。
そこで本記事では、セミリタイアに必要な資産について、目標額の基本的な算出方法や家族構成別の試算、目標達成に向けた資産形成メソッドや注意点などをまとめてみました。
これからセミリタイアを検討しようと思っている方は是非参考にしてみてください。
セミリタイアとは?FIREに必要な資産額の考え方
本題に入る前に、読者の皆さまはセミリタイアと早期リタイアの違いをご存じですか。
実は一口にリタイアといっても、その種類は一つではありません。いつどのようにリタイアするかにより幾つかの種類に分類されているので、簡単に違いを知っておきましょう。
リタイアの種類
セミリタイアと似た言葉にアーリーリタイアや早期リタイア、完全リタイアなどがあります。
1.早期リタイア(アーリーリタイア)
早期リタイア(アーリーリタイア)というのは、一般的な定年の時期(60歳~65歳)よりも早く会社員を引退することです。つまりリタイアの種類の中でも、リタイア時期に焦点を当てた呼び方になります。
最近では、組織の入れ替わりを目的として、早期退職すると退職金が優遇される早期優遇退職制度を採用している会社も多く、利用する40代・50代のサラリーマンの方も増えているようです。
早期リタイアと聞くとひと昔前の「リストラ」を思い浮かべる方もいるかもしれませんが、昨今は多様な働き方・生き方を求めて自らリタイアを早める方も多くなっています。
2.完全リタイアとセミリタイア
完全リタイアとは、退職後に仕事はせず、基本的には今までの貯蓄と年金などで生活を行います。一方セミリタイアの場合は、会社を退職後も簡易的な労働やアルバイトなどで一定の収入源を確保しながらリタイア生活を送ります。完全リタイアとセミリタイアは、退職後の労働の有無に焦点を当てた呼び方ですね。
また海外では、FIRE(Financial Independence, Retire Early)ムーブメントといって、経済的な自立と早期退職の両立を目指す人がサラリーマンを中心にトレンド化しつつあります。
がむしゃらに働く人生からは決別するとしても、少しは仕事をして社会とのきずなを保ちたい、完全リタイアしたいけど資産が貯まらない。そんな様々な事情からリタイアの在り方が多様化し生まれた選択肢です。
セミリタイア資金の目安
退職後後も最小限の労働で収入を得ながら暮らしていくのがセミリタイアですが、とはいえ会社員時代と比べ収入は大幅に減ってしまいますから、セミリタイアするまでに今後の生活を支えるだけのまとまった資産を築いておく必要があります。
となると、セミリタイアするには一体いくら資産が必要なのでしょう。
総務省統計局によると、毎月の平均的な生活費は単身世帯で163,781円、2人世帯で256,632円、3人世帯で303,763円、4人世帯だと338,650円。
(参考:2019年家計調査 / 家計収支編)
日本人の平均寿命はおおよそ85歳なので、これからのデータを基にセミリタイア資金を概算することが出来ます。では早速、年齢・世帯・セミリタイア後の収入別に必要な資産額をシミュレーションしてみましょう。
既出の生活費の目安は全国の平均値にすぎないので、実際に計算する際には、ご自身の生活水準や居住地の物価などを考慮しながら生活費の額を調整頂く必要があります。
世帯別!セミリタイアに必要な貯金額はいくら
セミリタイアにかかる資金は、当然ながら家族構成やリタイア年齢によって変わってきますよね。ここでは単身世帯、夫婦二人世帯、家族三人世帯を例に試算してみましょう。
独身一人世帯の場合
先ほどの総務省統計局のデータから、単身世帯の月の支出を約16万5000円としましょう。
計算式 | (16.5万円-月収)×12か月×(85歳-セミリタイア年齢) |
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この計算式にセミリタイア年齢とリタイア後の収入額を当てはめると、セミリタイアまでに貯めておくべき貯金額は以下のようになりました。
リタイア年齢
|
※1 リタイア後の月収 | |||
月0万 | 月5万 | 月10万 | 月15万 | |
30歳 | 1億890万円 | 7590万円 | 4290万円 | 990万円 |
40歳 | 8910万円 | 6210万円 | 3510万円 | 810万円 |
50歳 | 6930万円 | 4830万円 | 2730万円 | 630万円 |
※1 表内の月収は税金や社会保険料を支払った後に手元に残った額とします。
セミリタイア後に働かない場合は、独身でもなんと6000万円~1億円強の資金を貯めておかなくてはならない計算に。一方、セミリタイア後も月10万円ほどの収入が手元に入る場合は、30歳で4000万円強、50歳では約3000万円弱の資金でセミリタイアが可能な計算になります。
1000万円や2000万円の貯金でセミリタイアが可能といった情報も見かけますが、その場合は月15万近い月収があるか、生活費をかなり切り詰めているのでしょう。
夫婦二人世帯の場合
既出の総務省統計局のデータから、夫婦二人世帯の月の支出を約26万円としましょう。
計算式 | (26万円-見込み月収)×12か月×(85歳-セミリタイア年齢) |
---|
この計算式にセミリタイア年齢とリタイア後の収入額を当てはめると、セミリタイアまでに貯めておくべき貯金額は以下のようになりました。
リタイア年齢
|
※1 リタイア後の月収 | |||
月5万 | 月10万 | 月15万 | 月20万 | |
30歳 | 1億3860万円 | 1億560万円 | 7260万円 | 3960万円 |
40歳 | 1億1340万円 | 8640万円 | 5940万円 | 3240万円 |
50歳 | 8820万円 | 6720万円 | 4620万円 | 2520万円 |
※1 表内の月収は税金や社会保険料を支払った後に手元に残った額とします。
二人世帯では支出が多くなる分、セミリタイア後に月10万円ほどの収入があったとしても7000万円~1億円近い貯蓄が必要になってくるようです。
セミリタイア年齢を50歳まで引き上げれば、収入が月15万ほどの場合で約5000万円、月20万円ほどで約2500万円と比較的現実的な金額に抑えられそうです。一方30代となると、なかなか一般の会社員では手の届きづらい金額となってしまいますね。
三人世帯(夫婦+子供一人)の場合
三人世帯にも色々な家族構成があると思いますが、ここでは夫婦とお子さん一人という設定でご紹介します。
既出の総務省統計局のデータでは、三人世帯の月の支出は約30万円。しかしお子さんの場合はずっと一緒に暮らす(扶養する)わけではなく、大学入学や就職後は独立される場合も多いですよね。
そのためお子さんを含むご家庭の場合は、まずは先ほど紹介した計算式を参考に夫婦二人世帯の必要額を計算。その算出した額に子育て費用を足すという方法で、必要な資産額をシミュレーションしてみると良いでしょう。
以下はフコク生命学資保険 みらいのつばさ「しっかり知ろう!学資保険豆知識」を参考に、筆者がお子さんの年齢毎の子育て費用をまとめたものです。
0歳 | 約93万円 | 12歳 | 約127万円 |
1歳 | 約88万円 | 13歳 | 約153万円 |
2歳 | 約94万円 | 14歳 | 約153万円 |
3歳 | 約105万円 | 15歳 | 約161万円 |
4歳 | 約120万円 | 16歳 | 約177万円 |
5歳 | 約116万円 | 17歳 | 約177万円 |
6歳 | 約122万円 | 18歳 | 約177万円 |
7歳 | 約111万円 | 19歳 | 約205万円 |
8歳 | 約106万円 | 20歳 | 約205万円 |
9歳 | 約113万円 | 21歳 | 約205万円 |
10歳 | 約115万円 | 22歳 | 約205万円 |
11歳 | 約124万円 | 合計:3252万 |
※千の位以下四捨五入
※中学~大学まで国公立で自宅から通学
なお、表中で示したセミリタイア後の月収目安はいずれの場合も、所得税や住民税などの税金、年金や健康保険料などの社会保険料を引いたあと手元に残る額を記載しています。税金や社会保険料額は収入額や収入の種類、非課税や支払い免除の条件に該当するかなどによって変わりますので、詳細については以下の記事をご参照ください。

さて、セミリタイアまでに貯めておくべき資産額をシミュレーションしてみていかがでしょうか。独身でも20代でセミリタイアする場合や、40代・50代でも世帯人数が多い場合にはかなりまとまった額が必要となり、容易に貯められる金額ではなさそうです。
では、希望の年齢までにセミリタイア資産を作るには一体どうすればよいのでしょうか。
セミリタイア資金を効率よく貯めるには
上記のシミュレーションからセミリタイアにはかなりまとまった額の資産が必要ということがお分かりいただけたと思います。
一般のサラリーマンのお給料だけではセミリタイア資金を貯めるのは容易ではありませんが、だからといって「僕・私の給料で達成できるわけがない」と諦めるのは時期早々かもしれません。
元々まとまった財産がある方でなくても、給与収入の他に、お金にも同時に働いてもらい、その不良所得を組み込むことで目標金額達成への道も見えてきます。
資産運用をせず貯金のみする場合
例えば、50歳のセミリタイアまでに1億円を貯めなければならないケースで考えてみます。現在30歳、貯金額は800万円、毎年の貯蓄額が360万円と仮定しましょう。
50歳時の総資産額 | 360万円×20年+800万円=8000万円 |
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投資による資産運用を全くしなければ、50歳までに貯められる金額は8000万円と目標資産には2000万円届かない計算になります。
投資利回り4%で資産運用する場合
では同様のケースで、毎月の貯金額30万円のうち、20万円を年利4%で積立投資したとしましょう。
月20万円を積立しながら年利4%で複利運用すると、20年後の運用資産は約7277万円に。また残りの10万円は毎月銀行貯金したとすると、20年後には2400万円の貯蓄ができていることになります。
積立運用額 | 20万円を年利4%で20年運用=約7277万円 |
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貯金額 | 10万円×12か月×20年=2400万円 |
総資産額 | 7277万円+2400万円+元々の貯金額800万円=1億477万円 |
こちらのケースでは、今ある資金を元手に株式などに投資して4%の利回りで運用すれば、50歳までに目標資産を達成できる計算になり、資産運用するしないで20年間で2500万ほどの差が生まれました。
管理人
投資で資産がいくら増えるかは、野村證券のマネーシミュレーターなどを使って簡単に計算できます。
投資利回り5%で資産運用する場合
同様の考え方で、仮に年利5%で運用出来れば、セミリタイア時の資産は1億1316万円となり、ある程度の余裕資産を作ることも出来ます。
もちろん投資にリスクは付き物ですので、常に計算通りに行くとは限りませんが、殆どのケースで「単純に銀行貯金するだけでは資産目標達成はおぼつかない」のがセミリタイアの現実です。
僕のような一般のサラリーマンがセミリタイアを目指す時、投資による資産運用は切っても切れない関係、目標を達成するための頼もしい仲間と言えるでしょう。
投資で4~5%の利回りは現実的か
効率的な資産形成には投資が有効ということは分かりましたが、投資未経験の方は「4~5%」という数字がそもそも実現可能な利回りなのかご存じない方も多いですよね。
結論から言うと、年間利回り4~5%は十分実現可能です。資産を増やす目的で利用される金融商品は、銀行の定期預金や国債、株式投資、投資信託、不動産投資、FX(外国為替証拠金取引)など様々な種類がありますが、適切な商品を選んでリスクヘッジを掛けながら運用をすれば、初心者でも比較的安定して狙うことの出来る利回りと言えるでしょう。
投資初心者でも取り組める資産運用の方法については、以下の記事で詳しく紹介していますので、是非参考にしてみてください。

セミリタイア後も収入を確保する
さて、無事に資産形成が終わりセミリタイアを達成した後は、のんびり旅行をしたり、趣味に没頭したり、家族と時間を楽しんだり、あなたの今までの努力を慰労してあげましょう。
ただし、セミリタイアの場合はリタイアしたら終わりではなく、その後も簡易的なアルバイトなどで一定の収入を得ることが前提ですので、あなたの自由を阻害しない程度の仕事を見つけましょう。
アルバイトやフリーランスで短時間労働
十分な資産を貯めていても、資産を切り崩しながらの生活に不安やストレス感じる人も多いようです。高い年収を求める必要はありませんが、一定の労働で定期的な収入を得ることは、セミリタイア生活を健全に維持するために必要です。
とはいえ、折角セミリタイアするのだからバイト三昧の生活は本末転倒。セミリタイア生活では、短時間労働や好きな時にフリーランスで働くなどの無理のない働き方がおすすめです。
庭いじりが好きだから庭師になる、海が好きだから海辺のカフェで働く、ゴルフ場のグリーンキーパーを目指すなど、条件にとらわれず好きな仕事・やってみたい事に挑戦出来るのもセミリタイアの醍醐味です。
投資の不良所得で副収入を得る
投資でお金に働かせて利益を得るのは、何もセミリタイア前の資金作りにだけ利用できるものではありません。セミリタイア生活を送る方の多くも、最小限の労働と並行して資産運用による不労所得で生活費を調達されています。
お金が代わりに稼いでくれるわけですから、自分たちは最小限の労働で済み、残りの時間を有意義に使うことが可能になります。
ちなみに、海外でトレンドになりつつある経済的自立とリタイアの両立を目指すFIREムーブメントの支持者たちは、資産運用に関して「4%ルール」を提唱しています。
この「4%ルール」は、年間支出の25年分の資産を貯めて置くという前提のもと、その資産を投資して年利4%で運用して得た不労所得で生活すれば、築いた資産を切り崩すことなく生活していくことが出来るという考え方です。
ただし、これは税金等を考慮に入れず弾いた数字ですので、日本の税率や今後のインフレの可能性を考えると、投資による不労所得だけで生活費賄うには5パーセント以上を狙う必要があるでしょう。
最近ではコロナの巣ごもりもあって個人投資家デビューが増えるなど、日本でも資産運用の機運が盛り上がっています。資産運用でお金に働いてもらうという選択肢を上手に使い、最短・最適なセミリタイア生活を目指していきましょう。

セミリタイアの資金面での注意点
さて、ここまでセミリタイアに必要な資産の割り出し方や、資産形成の方法ついてご紹介しました。健全なセミリタイア生活のためには、出来る限り詳細で正確なシミュレーションに基づく計画が求められますが、必ずしも予定通りに事が運ぶとは限りません。
人生には上り坂、下り坂、そして「まさか」の三つの坂があると言われています。まさかの事態が起こった時、働いていて収入があればリカバリーも効くでしょうが、セミリタイア後の限られた収入ではそうもいきません。
では、具体的にどのような「まさか」の事態が考えられるか例を挙げてご紹介しましょう。
病気や怪我で収入がなくなる
国立がん研究センターの統計によると、50歳の男性が20年後までにがんになる可能性は20.3%、女性は16.1%と言われています。(参考:国立研究開発法人 国立がん研究センター がん登録・統計 最新がん統計更新)
病気はがんの他にもたくさんありますし、「自分だけは大丈夫」「今の健康状態がずっと続く」と楽観視するのは危険です。運悪く不幸に見舞われれば、働くこともままならないばかりか、余計な出費もかかり家計を圧迫してしまうこともあるでしょう。
想定外の支出で家計が厳しくなる
例えば、現在お子さんが中学1年生だとすると、教育費・生活費の面倒を見るのは10年後までの計画だと思います。
しかし、中学校から大学、そして就職と、お子さんが必ずしもそんな王道ステップを歩まれるとは限りません。音楽の道に進みたい、海外の大学に行きたい、Youtuberになりたい、アイビーリーグに通いたいなど子供の可能性は無限大です。「子供の夢を出来るだけ応援したい」と考える親御さんも多いですが、場合によっては想定外の費用が掛かります。
逆にまさかと思いますが、学校を卒業して引きこもりやニートになってしまったら、もしくは非正規の仕事で収入が不安定だとしたら。あなたの支援が必要になるかもしれませんね。今や15歳~34歳の引きこもり・ニートの数は60万人を超え、また働く人の4割は非正規労働者という状況ですから、決してあり得ない話ではありません。
急に趣味に目覚める
セミリタイア後の時間の余裕を利用して趣味の活動を広げることは良いことです。そのような生活こそ本来のセミリタイアの目的・醍醐味ですよね。
今まで多忙な会社員生活を送り、ほとんどプライベートに費やす時間のなかった方が趣味の活動を始めた時、その面白さにどっぷりはまってしまうという事も考えられます。
特にお金のかかるような趣味を見つけてしまった場合は、趣味を楽しみたい気持ちと節約しなければならないという現実の狭間で、十分にリタイア生活を楽しめない状態に陥るかもしれません。
両親の介護が必要になる
父親は数年前に亡くなり、一人暮らしの母親が痴呆気味になってしまった。同居が現実的でない場合、特別養護老人ホームや有料老人ホームを利用することになるかもしれません。有料老人ホームは、契約金・預託金だけで1000万円以上、月額費用が30万円前後というような施設も珍しくありません。
僕たちが若い内は両親が健在でも、セミリタイア後10年、20年の内に状況が大きく変化することは十分にあり得ます。
ここに挙げた以外にも、「まさか」の自体は様々起こり得ます。セミリタイアで失敗しないためには、詳細かつ個々の生活水準やプランに裏付けられた資産形成計画を考えるべきです。そして少々何かが起きても動じない程度に「余裕」を見ておくのがおすすめです。
セミリタイアに必要な資金まとめ
最後まで読んで頂きありがとうございます。本記事では、セミリタイア後に必要な資金条件や資産の作り方、セミリタイアをする上での注意点などを解説してきました。
セミリタイアを実現させるためには十分な資産作りは言うまでもなく大切で、全てがそこに掛かっていると言っても過言ではありません。
しかし、資金集めばかりに注力し、肝心な「リタイア後に何をしたいか」「どう暮らしていきたいか」という明確なビジョンがないと方向を見失うことにもなりかねません。
「なぜ自分はセミリタイアを目指すのか?」具体なセミリタイア後のイメージを描き、着実に計画を実行して有意義なセミリタイア生活を叶えましょう。
