仕組みが複雑で懸念されがちな税金や社会保険料の支払い。セミリタイア後はそんな面倒な税金や社会保険料の支払いを自分で手続きしなければいけないほか、自己負担額が増えるなど、セミリタイアをする人にとっては結構な重荷に。
しかし、実は税金や社会保険料の制度にはセミリタイア者の暮らしの助けとなるような有難い制度がたくさんあるんです。
知っているのといないのとではセミリタイア後のお財布事情が大きく変わってきますので、これらの制度を使わない手はありませんよね。是非これを機会にセミリタイア後の税金・社会保険料事情について基本を押さえておきましょう。
本コンテンツに記載の内容は、筆者の自己研究による理解であり、その内容の正確性や完全性について保証するものではありません。また記載の内容は本記事の執筆時現在の情報です。本コンテンツを参考に頂くほか、ご自身で最新情報の確認もお願い致します。
セミリタイア後は税金・社会保険料の支払いに注意
会社員ならば一カ月に一度の給料日にもらえる給与明細。給料から差し引かれる所得税・住民税・厚生年金保険料の項目も、普段は強く意識することも少ないのではないでしょうか。
一方セミリタイア後は、税金の計算や届け出、納付まで自分自身で行わなくてはいけません。セミリタイアしてから「こんなはずでは!」とならないためにも、どんな種類の税金をいつ・どこに・どのように払うのかなど、事前に知識をつけておくのが得策です。
<この記事で取り上げる税金・社会保険>
- セミリタイア後の所得税
- セミリタイア後の住民税
- セミリタイア後の国民年金保険
- セミリタイア後の国民健康保険
- 失業保険や医療費減免などの支援制度
1.セミリタイア後の所得税
「所得税」は国が課税者として個人の所得に対して課す税金。所得の種類は利子所得 ・配当所得 ・ 事業所得・給与所得・雑所得・一時所得・譲渡所得・不動産所得・山林所得・退職所得の10種類に分けられ、所得の種類によって課税内容が異なります。
所得税の計算方法
所得税の計算方法は、以下の算式で計算します。
(①経費を除いた1/1~12/31の1年間の全所得ー②所得控除額)×③税率ー④税額控除 |
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1年間の所得がいくらになるかは、上で紹介した所得の種類によって計算方法が異なります。所得の種類によって課税対象所得の計算方法を変えることにより、国民の課税負担をフラットしているようです。
所得がいくつかの種類にまたがる方は、それぞれの課税所得を割り出し、その合計額に税率を適用して計算します。※ただし、株式売買などによる譲渡所得や配当所得・利子所得などは分離課税扱いになります。
①1年間の所得の計算
ご紹介した算式内の1年間の全所得がいくらになるのか、ここでは10種類の所得の中から、セミリタイア者と関係が深いだろう給与所得と事業所得をピックアップして説明します。
給与所得 | 給与等の収入(源泉徴収票の支払金額)ー給与所得控除額 |
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給与所得は、会社員やアルバイトなど勤務先から受ける給与や賞与などの給与収入から、給与所得控除額を引いた額になります。給与所得控除がいくらになるかは以下のように収入金額によって変わる仕組みです。
例えば以下を参考すると、年収がちょうど360万円の場合、控除額は116万円。①の経費を除いた1/1~12/31の1年間の全所得は244万円という事になります。
●給与収入が年162.5万円以下
→所得控除:55万円
●給与収入が年180万円以下
→所得控除:収入金額×40%ー10万円。
●給与収入が年360万円以下
→所得控除:収入金額×30%+8万円
つづいて事業所得は、フリーランスや個人事業主の方の事業収入から経費を引いた額が該当します。事業所得の場合は、総収入から経費を引いた額が1年間の所得に当たります。
事業所得 | 総収入金額ー必要経費 |
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他にも配当や不動産など別途所得があるという方は、国税庁「所得の種類と課税方法」で詳細をご覧になってみてください。
②所得控除額
今ご紹介した1年間の所得合計のうち、所得控除額にあたるものは課税対象から控除してもらえます。所得控除にも様々な種類が設けられていて、日本に住所のある居住者については以下のようなものがあります。
<所得税の所得控除の種類>
雑損控除・医療費控除・社会保険料控除・小規模企業共済等掛金控除・生命保険料控除・地震保険料控除・寄附金控除・障害者控除・寡婦控除・ひとり親控除・勤労学生控除・配偶者控除・配偶者当別控除・扶養控除・基礎控除
(参考:国税庁「No.1100 所得控除のあらまし」)
当然ながら同じ所得の人でも、養う家族の数が多かったり、生涯を抱えていたりすれば家計の負担も異なってくるでしょう。所得控除は、そういった個人の諸事情を所得計算に反映させる仕組みとなっています。
③所得税の税率
執筆日現在の所得税の税率は以下の通りで、所得金額に応じて5%から45%の7段階でに分けられ、所得が高いほど高い税率が適用されます。
※2013年から2037年までの各年分の確定申告においては、復興特別所得税として基準所得税額の2.1%も納付する必要があります。
④所得税の税額控除
課税所得金額に税率をかけたあとに引かれるのがこの税額控除で、二重課税を防ぐ目的で設定されています。控除対象になる場合は21項目程あり、例を挙げると住宅ローン控除・配当控除・寄付金控除などが、課税額から差し引かれます。
(参考:国税庁「No.1200 税額控除」)
(参考:弥生株式会社 所得控除と税額控除の違い)
セミリタイア後は控除額を上手に利用しよう
少し複雑でしたが、以上が所得税の基本です。では、セミリタイア後の限られた収入での生活では所得税はどのようになるでしょうか。出来る事であれば控除額を利用して出来るだけ税金を減らしたいところですよね。
給与所得のみの場合
収入源がアルバイトや契約社員など会社から受ける給与所得のみの場合、基本的に給与所得が年間103万円までであれば所得税は非課税になります(課税額より控除額の方が多くなります)。
その他にも、上で紹介した14種類の所得控除に該当がある場合にはその分だけ非課税枠が更に広くなります。
例えば、配偶者がいる場合は配偶者控除として38万円の控除が加わります。各所得控除の控除額や条件は国税庁の「No.1100 所得控除のあらまし」で詳しく紹介されていますので一度ご覧になってください。
事業所得の場合
セミリタイア後は会社や組織に属さず、個人でフリーランスや個人事業主として収入を選る人も多いでしょう。
個人事業による収入の場合、給与所得に適用される給与所得控除はなく、基礎控除しか適用されません(白色申告)。しかし青色申告をすれば青色申告控除55万円を受けることができ、48万円の基礎控除と合わせて103万円の年収まで所得税が非課税になります。
フリーランスの方が青色申告をするメリットは控除の他にも、青色事業専従者給与、赤字の繰越などがあります。セミリタイア後フリーランスでの仕事を検討中の方は、国税庁の「No.2072 青色申告特別控除」で詳細を確認してみてください。
青色申告に切り替えるには、確定申告時期より前に開業届と所得税の青色申告承認申請書を税務署に提出しておきます。始めに一度提出しておけばその後も毎年自動で青色申告が適用される仕組みです。
ただし、失業手当を受ける予定がある場合、開業届を出してしまうと失業手当が受けられなくなってしまうため、それだけは注意が必要です。
資産運用による不労所得の場合
資産運用による投資利益にかかる税金については、金融商品によって税率や非課税制度の有無が異なりますので、ご自身の運用方法についてそれぞれ確認が必要です。参考までに、個人による投資の場合は税金が高い順に以下のようになっています。
仮想通貨 | 税率5~45% 総合課税で総収入が年20万円以下なら非課税 |
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不動産売却 | 税率最大30% 総合課税で条件次第で非課税または軽減 |
FX | 税率最大20.315% 申告分離課税 |
株式投資 | 税率最大20.315% 譲渡益は申告分離課税 ※NISA口座なら非課税枠あり |
投資信託 | 税率最大20.315% 売買益:申告分離課税 配当金:総合課税または申告分離課税 NISA口座なら非課税枠あり ※配当金で総合課税をおさらい選択する場合、税額控除の適用もあり |
2.セミリタイア後の住民税
さて、所得税の次はセミリタイア後の住民税の基本や計算方法、控除の制度について見て行きましょう。
住民税とは都道府県民税と区市町村民税の総称で、1月1日時点で住んでいるところ(一般的には住民票に記載された住所)の市町村により課税される仕組みです。
住民税の計算方法
住民税は、前年1年間(1月1日~12月31日)の所得金額をベースとする「所得割」と、所得に関わらず定額でかかる「均等割」の2種類に分類されます。
A:所得割 | {(前年総所得金額-経費)-①所得控除額}×(道府県民税4%+市区町村民税6%) |
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B:均等割 | 道府県民税1,500円+市区町村民税3,500円=5000円 |
住民税総額 | A+B-②税額控除 |
例えば、前年の年収が600万円、所得控除額が全部で200万円、調整控除・配当控除は計算上0と仮定すると、住民税は以下のような計算となります。
A:所得割 | (600万円-200万円)×(4%+6%)=40万円 |
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B:均等割 | 5000円 |
住民税総額 | 40万円+5,000円=40万5000円 |
住民税に適用される税率は、神奈川県(2021年まで)と名古屋市を除いて基本的に全国一律で、住んでいる場所によって違うとするのは都市伝説です。
①所得控除額
所得金額から差し引くことのできる住民税の所得控除には13種類の控除があります。
<住民税の所得控除の種類>
雑損控除・医療費控除・社会保険料控除・小規模企業共済等掛金控除・生命保険料控除・地震保険料控除・障害者控除・寡婦控除・勤労学生控除・配偶者控除・配偶者当別控除・扶養控除・基礎控除
基礎控除は納税者全員に適用され、残りの控除については該当者のみ対象となります。それぞれ控除の種類によって控除金額や条件が違いますので、詳細はお住まいの地域の自治体ホームページで確認が必要です。
②税額控除額
税額を計算した後に差し引くことの出来る税額控除には以下のようなものがあります。
<住民税の税額控除の種類>
配当控除・外国税額控除・寄附金税額控除・調整控除・配当割額及び株式譲渡所得割額の控除・住宅借入金等特別税額控除(住宅ローン控除)
資産運用による不労所得がある方は、配当控除や配当割額及び株式譲渡所得割額の控除が該当する可能性があります。こちらも各自治体ホームページ内にて詳細に条件が指定されていますので、ご自身に該当するものがないか予め目を通しておきましょう。
住民税の支払い
決定された税額の徴収方法は、会社勤めの場合は特別徴収、自営業者やフリーターには普通徴収が適用されます。
特別徴収は、決定税額をその年の6月から翌年5月の期間に分割徴収する方式で、会社員であれば給料から毎月差し引かれるので意識することも少ないでしょう。
一方で普通徴収の場合は、6月・8月・10月・翌年1月に1/4ずつ徴収する方式です。特にセミリタイア1年目は収入が激減したのに現役時代とほぼ同額を納付することになり、税負担をずしりと実感せざる負えません。こうした事態に焦らないで済むようにリタイア前に納税資金は準備しておきましょう。
セミリタイア後は住民税控除を上手に利用しよう
さて、2年目以降はベースとなる所得金額がぐっと下がるので、所得額によっては住民税の均等割または所得割が課税されない場合が出てきます。
住民税の非課税限度額
▼均等割・所得割共に課税されない
前年の合計所得金額が以下表の額を超えない場合、東京23区では以下が非課税限度額として適用され、均等割・所得割ともに課税されません。
独身一人暮らし | 35万円以下 |
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配偶者又は扶養親族あり | 35万円×(本人/同一生計配偶者/扶養親族の合計人数)+21万円以下 |
▼所得割だけ課税されない
前年中の合計所得金額が以下表の額を超えない場合、東京23区では以下が非課税限度額として適用され、所得割だけが非課税になります。
独身一人暮らし | 35万円以下 |
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配偶者又は扶養親族あり | 35万円×(本人/同一生計配偶者/扶養親族の合計人数)+32万円以下 |
所得割と均等割り両方が非課税になる場合との違いは、配偶者又は扶養親族がいる場合のみです。
前年の合計所得金額がこの非課税限度額を超える場合には、上記計算式を用いて住民税を計算することになります。
非課税限度額を超えても課税されない場合
既出の通り、前年の合計所得金額が非課税限度額を超える場合には、以下の表に当てはめて計算されることになります。
A:所得割 | {(前年総所得金額-経費)-所得控除額}×(道府県民税4%+市区町村民税6%) |
---|---|
B:均等割 | 道府県民税1,500円+市区町村民税3,500円=5000円 |
住民税総額 | A+B-税額控除 |
ただし、ここで注目すべきは非課税限度を超えてはいけないのは合計所得金額であって、合計収入(実際いくら稼いだか)ではないことです。
▼給与所得のみで生活する場合
前年中の合計所得金額は、収入から給与所得控除を引いた金額になります。東京の場合の給与所得控除額は以下の通り。
(参考:東京都主税局 個人住民税の所得金額)※表内は東京23区内の場合です。他の地域にお住まいの方は各自治体の条例をご確認ください。
さらにそこから所得控除の一つである基礎控除の43万円が適用されますので、最低でも課税所得金額が65万円+43万円=98万円以下におさまるのであれば、所得割は非課税になります。更に他の所得控除や税額控除の対象がある方はその分非課税枠も大きくなります。
▼事業所得のみで生活する場合
事業所得のみの場合、前年中の合計所得金額は総収入金額から必要経費を差し引いた額になります。つまり必要経費と所得控除を足した金額が住民税の掛からない収入額となりますね。
ただし青色申告をすれば青色申告控除55万円を受けることができ、43万円の基礎控除と合わせて98万円の年収まで所得税が非課税になります。
管理人
住民税は各自治体が課税者になりますので、住民税や控除額・条件の詳細はお住まいの市区町村のHPで必ずチェックしてくださいね!
3.公的年金(厚生年金から国民年金へ)
さて、住民税は若干ややこしかったですが、気を取り戻して次は年金制度について見てきましょう。
公的年金制度では、国民皆保険制度といって20歳から60歳までの日本国民である以上はいずれかの保険に加入し、保険料を支払わなければいけません。
公的年金は主に会社員・公務員が加入する厚生年金と、自営業者やフリーターなどが加入する国民年金の「2階建て」により成り立っています。
(参考:厚生労働省)
セミリタイアをすると適用を受ける公的年金制度も、厚生年金から国民年金へ切り替わることになります。
年金保険料の計算方法
国民年金に加入する被保険者(保険料を支払う人)を「第1号被保険者」、厚生年金に加入する被保険者を「第2号被保険者」と呼びます。
セミリタイアして会社員でなくなると、厚生年金の「第2号被保険者」から国民年金の「第1号被保険者」に切り替わるわけで、当然保険料も変わってきます。
会社員時代
サラリーマンの間は、標準報酬月額(月給)の18.3%に相当する保険料が徴収されますが、徴収額のうち1/2は勤め先が負担してくれるので、残りの半分が本人負担分です。
月給20万円 | 本人負担保険料=20万円×18.3%×1/2=18300円 |
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月給30万円 | 本人負担保険料=30万円×18.3%×1/2=27450円 |
月給50万円 | 本人負担保険料=50万円×18.3%×1/2=45750円 |
このように月給によって負担額が増減するのが、会社員時代の保険料の特徴です。
セミリタイア後
一方会社員でなくなると、毎月定額の16,540円(令和3年度)が徴収されます。セミリタイアすると収入は激減しますが、バイト代が月10万円でも5万円でも保険料は変わりません。しかも給料から天引きされるわけではなく、毎月コンビニなどに納付書を持ち込んで納付手続きしなければいけません。
特に注意したいのは、今会社員で配偶者が専業主婦(主夫)という場合。このような場合はセミリタイアすると配偶者の分の国民年金保険料も支払わねばならず、負担は倍増します。
なぜかと言うと、会社員の配偶者で専業主婦等は第3号被保険者といって、「第2号被保険者がまとめて保険料を払っている」という理屈で保険料負担が免除されています。(専業主婦等には、年収が130万円までのパートしている奥さんも含みます。)
ところがセミリタイアすると、「会社員の奥さん」から「フリーターの奥さん」に代わり、2号から外れてしまいます。そして奥さん自身も第1号被保険者としてご主人とともに加入、夫婦ともども月額16540円を支払わなければいけないのです。
奥さんが専業主婦でセミリタイアを目指す場合は、頭の片隅に入れておきましょう。
セミリタイア後は納付免除制度を活用しよう
収入が少なかったり失業したりといった理由で国民年金保険料の支払いが困難な場合には、申請が認められれば免除の適用を受けることができます。
ただし保険料が払えないからといって何もしないでいると、後で必ず督促されます。さらに滞納を続けると資産が差し押さえ、且つ保険料本体の他に延滞金(3か月を過ぎた場合には延滞率9%近く)も納付しなければいけません。
加えて保険料未納は、将来の年金支給額にも大きく響きますので払えない場合は免除制度を忘れずに申請しましょう。
支払い免除制度の条件
免除の制度には全額免除、3/4納付、半額納付、1/4納付の4種類があります。免除を受けることができるかどうかは、前年所得(1~6月に申請する場合は前々年所得)が世帯別に定められた一定基準を下回ることが条件です。
全額免除 | (扶養親族等の数+1)×35万円+22万円以下 |
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4分の3免除 | 78万円+※1扶養親族等控除額+※2社会保険料控除額等 |
半額免除 | 118万円+扶養親族等控除額+社会保険料控除額等 |
4分の1免除 | 158万円+扶養親族等控除額+社会保険料控除額等 |
扶養親族控除額や社会保険料控除額は以下のような場合が該当し、年末調整や確定申告で申告した金額になります。
※1<扶養親族等控除額>
- 老人控除対象配偶者又は老人扶養親族1人につき48万円
- 16歳以上23歳未満の扶養親族1人につき63万円
- それ以外の扶養親族など1人につき38万円
※2<社会保険料控除額等>
- 純損失額および純損失の控除額、医療費控除額、社会保険料控除額、小規模企業共済等掛金額
- 配偶者特別控除額
- 肉用牛の売却による事業所得に関する控除額
- 障がい者1人につき27万円(特別障碍者の場合40万円)
- 寡婦又は寡夫に該当する場合は27万円
- 勤労学生に該当する場合は27万円
そしてここでの「前年所得」も前年の収入ではなく、そこから経費を引いた所得が条件のベースとなります。
つまり給与所得の場合は、収入金額-給与所得控除が「所得」。事業所得の場合は、収入金額-必要経費が「所得」ということになりますが、事業所得の場合は青色申告を行うことによって青色申告控除分も収入から差しい引くことが出来ます。
免除を受けると老齢年金はどうなる?
通常、年金は受給資格期間(保険料を納付した期間)の長さによって将来の給付額が決まります。20歳から60歳まで最長40年の受給資格期間を満たすと、年額約78万円の満額が給付されます(=老齢年金)。
しかし年金の支払い免除を受ける場合は、受け取れる老齢年金が以下の通り少なくなりますので注意が必要です。
全額免除 | 全額納付した場合の2分の1 |
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4分の3免除 | 全額納付した場合の8分の5 |
半額免除 | 全額納付した場合の8分の6 |
4分の1免除 | 全額納付した場合の8分の7 |
また免除制度を利用する場合は、個人型年金や国民年金基金へ加入することが出来なくなることも認識しておきましょう。
4.セミリタイア後の国民健康保険
さて、疲れた方ももうひと踏ん張り!最後に国民健康保険の場合を見てみましょう。
国民皆保険制度を原則とする日本では、国民はいずれかの健康保健制度に加入する義務があります。健康保健制度は、個人事業主やフリーランスが加入する国民健康保険と、サラリーマンの人が加入する健康保険(政管健保・組合健保)の2種類で構成されています。
セミリタイアをして企業に属して仕事をしない場合には、健康保険を脱退して国民健康保険に加入しなければいけません。
そこで気になるのは、2つの保健制度の違い。医療サービス面では、2制度とも「3割負担」「高額療養費制度」を基本としており大きな違いはありません。変わってくるのは、負担面つまり保険料です。
健康保険料の計算方法
国民健康保険料は世帯ごとに課され、世帯主がまとめて納める方式です。保険料の内訳は以下の3種類で合計したものが保険料となります。
医療分 | 医療給付に充てられる |
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後期高齢者支援金分 | 後期高齢者の支援金等に充てられる |
介護分 | 介護給付に充てられる(40歳以上65歳未満の人が負担) |
肝心な保険料の計算式は以下の通りで、計算した金額が限度額を超える場合には限度額が適用されます。
(算式)所得割額+均等割額 | |
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所得割額 | 所得金額×料率 |
※資産割額 | 固定資産税額×料率 |
均等割額 | 固定額×世帯人数 |
※平等割額 | 世帯ごとの固定額 |
※一部の市区町村では資産割と平等割で算出する市区町村もあります。
国民健康保険は市区町村が運営しており、各料率や固定額は市区町村によって異なります。国民健康保険計算機などのツールを使うとお住まいの地域の健康保険料を簡単に計算できて便利!セミリタイア後の移住先を決めていない方は、国民健康保険の安いとこを選ぶのも良いかもしれませんね。
セミリタイア後は減免制度を活用しよう
国民年金保険には残念ながら全額免除の制度はありませんが、所得が一定の基準以下の方に対する軽減制度が設けられています。失業した際にもこの減免制度を利用できますが、自発的な失業の場合には適用されてないので注意が必要です。
この減額条件や減額率もまた、市区町村によって内容異なりますので詳しくは市区町村HPで確認が必要です。例えば、東京都大田区の場合では、所得が以下の条件に当てはまる場合は該当の割合で減免を受けることが出来ます。
所得基準に応じた減免割合(東京都大田区の場合) | |
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7割 | 33万円以下 |
5割 | 33万円+28.5万円×世帯人数 以下 |
2割 | 33万円+52万円×世帯人数 以下 |
本制度による減免は市区町村が住民税の申告を元に自動的に行うので、申請等は不要です。
現役時代の健康保険制度に継続加入できる?
セミリタイア後2年間は、現役時代に加入していた健康保険に「任意継続被保険者(通称:任継)」として加入し続けることもできます。
いずれの制度に加入する方がお得になるかは、扶養家族の有無・全年度の所得金額や退職金および住んでいる市区町村によって変わってきます。具体的には市役所等窓口での相談をするのが確実です。
任継の申請期限は退職後の翌日から20日以内なので、出来るだけ早めに手続きを済ませるようにしましょう。
5.セミリタイア組に嬉しい国の支援制度は他にも
さて、ここまで所得税・住民税・年金・国保のしくみやセミリタイア後に利用したい免除や減額制度をご紹介しました。最後はおまけとして、セミリタイア組には有難い二つの制度を追加でご紹介しましょう。
失業保険
雇用保険制度に定める失業手当は、離職した人が再就職できるまでの期間、生活面で不安を抱えることなく就職活動できるよう、経済的に支えるしくみです。
失業手当は、一定の受給資格を満たした離職者に対し支給します。失業手当の受給資格や受給額は、自己都合か会社都合(本人の意思に関係ない解雇など)によって大きく異なります。セミリタイアは本人の意思によるリタイアなので、ここでは自己都合のケースについて解説します。
受給資格
リタイア前2年間のうち12か月以上雇用保険に加入していれば受給資格が得られるので、セミリタイアするサラリーマンは問題ないでしょう。
受給額
雇用保険の加入期間によって、受給額は変わります。雇用保険の加入期間が10年未満の場合は90日、20年未満は120日、20年以上は150日分の失業手当が支給されます。
1日の支給額(基本手当日額)は離職日前6か月間の賃金実績をもとに50~80%(60歳-64歳の場合は45~80%)相当と決められています。
基本手当日額=賃金日額(退職前6か月の賃金合計÷180)×給付率(50-80%) |
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ただし基本手当日額は、年齢ごとに一定の上限額が設けられています。
~30歳 | 日額上限6845円 |
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~45歳 | 日額上限7605円 |
~60歳 | 日額上限8370円 |
~65歳 | 日額上限7186円 |
失業手当を受け取るための手続き
セミリタイアした後、しばらくのんびりブラブラするのも悪くないですが、失業手当は受け取れません。つまり再就職する意思をはっきりと示すことで初めて受給資格を得られるのです。
具体的には、以下のような手続きを踏んだうえで、28日ごとの認定日に失業認定申告書(求職活動などを記載した書類)を提出してはじめて手当てが支給されます。
- ハローワークに出向いて離職票と求職票を提出
- ハローワークの説明会に出席
- ハローワークで仕事を探す
医療費の自己負担額の軽減
高額療養費制度とは、持病等の病気により毎月高額の医療費がかかる場合に、一定の限度額を超える部分を国庫で補助する制度です。
所得水準が低いと限度額も引き下げられる仕組みで、最も低い住民税非課税世帯の場合、月の限度額は35400円(限度額オーバーが4か月を超えるときは24600円)となり、それ以上かかった場合には払戻しを受けることが出来ます。
セミリタイア後の税金・社会保険まとめ
何とも小難しい内容が続きましたが、最後まで読んで頂きありがとうございます。
セミリタイアすると収入環境は現役時代と大きく変わります。セミリタイア後も高い収入を得られる予定であれば別ですが、限られた収入で生活をしていくのなら節税や免除制度をうまく利用しない手はありません。
まずは転ばぬ先の杖、国税・地方税や社会保険料の仕組みを理解して、ご自身のお住まいの地域や家族構成ではどんな場合が一番お得になるのか、予め試算しておきましょう。
セミリタイア後の収入が本記事でご紹介した納付免除や減免条件を超えてしまう方は、この先掛かる税金や保険料も併せて必要額を準備しておきましょう!